児童福祉基本法制 II
特 色
戦後の児童福祉に関する重要文献を網羅
児童福祉の黎明期にあたる1940年代から、転換期にあたる1970年代までに関連省庁、著名な研究者によって発表された数多くの文献・資料をはじめて集成復刻!
5つの重要課題を体系的に捉える構成
児童福祉の重要課題を体系的に捉え易いようにテーマ別に構成。まずは、総論として児童福祉の根幹を成す基本法制(児童福祉法、児童憲章など)に焦点をあてた『児童福祉基本法制』を第1弾として刊行。
現代の児童福祉研究に有益な文献を選定
収録文献・資料は、現代の児童福祉研究の視点から有益なものを選定。また入手困難な貴重文献も多数収録。
●児童福祉基本法制IIの位置づけ
第二期として編集した文献や資料は、児童福祉法や児童憲章の考え方にもとづいて、実際の児童福祉がどのようにして運営されていったのかについて知る上で貴重なものである。時期的には、昭和23年12月29日に厚生省令として示された「児童福祉施設最低基準」からはじまって、昭和48年の第一次石油危機までの時期を主たる対象としている。内容に関しては、三つに分けることが出来る。第一は、行政運営上の直接的必要により制定された「児童福祉施設最低基準」「児童保護措置費取扱要領」「児童相談所執務必携」などの行政文書である。第二は、『児童福祉十年の歩み』『児童福祉三十年の歩み』『児童福祉法施行十五周年記念児童福祉白書』などの歴史を意識した文献である。第三は、辻村泰男著『児童福祉学』にみられる、この時期における理論研究の成果である。この三つにより当該時期における児童福祉の展開を垣間見ることができる。
各巻構成
第9巻 |
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児童福祉マニアル 厚生省児童局編/日本少年教護協会/1951年 |
児童福祉必携 児童相談所、児童福祉司、社会福祉主事及び児童委員の活動要領 厚生省児童局編/日本少年教護協会/1952年 |
第10巻 |
児童相談所執務必携 厚生省児童局編/厚生省児童局/1957年 |
児童相談所執務必携(改訂版) 厚生省児童局編/日本児童福祉協会/1964年 |
第11巻 |
児童福祉事業運営の知識 日本社会事業協会編/日本社会事業協会/1949年 |
日本福祉事業関係資料 中央社会福祉協議会編/中央社会福祉協議会/1951年 |
児童福祉事業の概況 厚生省児童局編/厚生省児童局/1952年 |
日本における児童福祉事業の概況 厚生省児童局編/厚生省大臣官房統計調査部/1950年 |
第12巻 |
児童福祉施設最低基準 松崎芳伸著/日本社会事業協会/1949年 |
第13巻 |
児童福祉施設の財務 亀海 清著/雄文社/1949年 |
第14巻 |
児童保護措置費取扱要領 厚生省児童局企画課編/日本児童福祉協会/1964年 |
第15巻 |
児童福祉母子福祉執務提要 厚生省児童家庭局編/日本児童福祉協会/1964年 |
第16巻 |
児童福祉十年の歩み 厚生省児童局編/日本児童問題調査会/1959年 |
第17巻 |
児童福祉三十年の歩み 厚生省児童家庭局編/日本児童問題調査会/1978年 |
第18巻 |
家庭における児童 東京国際児童福祉研究会議の報告 高田浩運編/日本児童問題調査会/1959年 |
第19巻 |
児童福祉法施行15周年記念 児童福祉白書 厚生省児童局編/厚生問題研究会/1963年 |
児童福祉行政講義録 厚生省児童局企画課編/日本児童福祉協会/1963年 |
第20巻 |
児童福祉学 辻村泰男著/光生館/1970年 |
別冊 |
シリーズ1 解説・解題(網野武博・柏女霊峰・新保幸男) |
刊行のことば
網野武博(東京家政大学教授)
20世紀末から今世紀にかけて、わが国の社会福祉をめぐる状況は、歴史上画期的な転換を遂げようとしています。その一翼を担う児童福祉においても、子どもの最善の利益、子どもの権利擁護など、子ども主体の福祉を指向し、さらに保護者や子育て家庭への支援、次世代育成支援なども視野に入れた、子ども家庭福祉を指向する新たな歴史的転換期を迎えています。
この歴史的な潮流に至る半世紀あまりのわが国児童福祉のすべての歩みの基礎となり基軸となっていたものは、第二次世界大戦後の混乱と児童保護ニーズが差し迫る中で1947年に公布された児童福祉法であり、また1951年に採択された児童憲章でありました。その仕組みや理念は、それまでの慈善事業、社会事業と法制度を踏まえつつも、しかし新たなる児童福祉観を掲げて新天地を切り拓こうとする熱意と意欲を強く覚えさせるものでした。それは、パターナリズムの意識を伴う公的な権限、責任、義務の側面を強く保持しつつ、しかし一方で、すべての子どもの権利擁護をすべての人々が保障する社会を指向する萌芽を既に内包していたものでありました。
20世紀後半の半世紀、そして少子高齢社会の到来となった21世紀の今日、あらためてこの間の著しい社会、経済、文化、そして地域社会、家庭の変貌にさらされ、その対応に追われ続けてきた児童福祉のすべての歩みをみるとき、私たちは、この両側面が如何に機能し、そして今日、将来の児童福祉の方向性を如何に暗示してきたかについてあらためて解読させられ、示唆を受ける思いを強くするものであります。それは、児童福祉法制、児童養護、保育、非行・犯罪、心身障害、ひとり親家庭等々のあらゆる児童福祉の展開を通じて、今、あらためて学びなおす必要性の高い課題であります。
そこで、1940年代後半から1950年代のわが国児童福祉黎明期とも称すべき時期から、その後それを実現展開させるための課題の対応に追われた1970年代頃までに公にされ上梓された貴重な文献をあらためて集成し、その意義や課題について検討することは、今日そして将来の児童福祉を展望する上で不可欠な、また非常に意義のあることと考え、本ライブラリーを編集することと致しました。
私どもは、このライブラリーが、関係諸氏に貴重な素材として提供され、これをさらなるわが国児童福祉の進展に寄与すべく活用され、何がしか貢献し得るものがありましたら、誠に幸せに思うところであります。
推薦のことば
児童福祉の在り方を見据えるための原点として
阿部志郎(神奈川県立保健福祉大学長)
1947年、戦前の反省を踏まえ、「すべての児童が、歴史の希望として、心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成される」という願いを込めて、「児童福祉法」が制定された。我が国の本格的な児童福祉の根幹がようやく成立したのである。それから60年余、高度経済成長期、バブル崩壊など激動の時代のなかで、社会、学校、家庭での児童を取り巻く環境は急速に変化した。それに伴い、児童における諸問題は制定当時の予想をはるかに超えた形で複雑化、多様化した。1995年には合計特殊出生率が過去最低の1.43を記録し、大きな問題として取り上げられた。その「少子化問題」は関係各人の努力により近年徐々に成果を挙げているが、未だ十分とは言い難い。さらに児童虐待、複雑化する少年犯罪など、児童福
祉をめぐる環境は常に新たな課題を突きつけられているといえよう。このような混迷の時代である現在、私たちはこれまで我が国が歩んできた児童福祉の歴史を振り返り、その原点に立ち戻る必要があるのではないだろうか。その意味で、本シリーズ『児童福祉文献ライブラリー』は、先人の知恵、実践、思想を映し出しながら、児童福祉の主要テーマを改めて一つ一つ検証することができる有益な資料である。我々研究者のみならず、多くの実務家、またその道を志す人々に、今後の一つの手掛かりを与えてくれることと思う。
戦後史再考の格好の資料として
汐見稔幸(白梅学園大学教授)
自分の意志で、親を、時代を、国を選んで生まれてきたわけではないのに、その家庭、その社会、その時代、その国を生きるという重荷を背負わされる子どもという存在に対して、そこに今生まれたことのしあわせをどう感じとってもらうのか、それを考えること、それが先行する世代の最低限のしかも共通の任務ではないかと思う。「福祉」ということばの「福」も「祉」も、「しあわせ」ということだと辞書にある。生れ落ちた環境も育ちの環境もすべて異なる子どもたち。その子たちに対して、わけへだてなく生きるしあわせを感じてもらい、しあわせを追求してもらう。そのために先行世代は何をどうすればよいのか。そのことを必死で考え抜き、行動すること、これが児童福祉なのだろうと私は思ってきた。その意味で児童福祉は、福祉学の専門家だけの仕事などではなくて、子どもにかかわるすべての大人の等しくかかわるべき事柄なのだと思う。
私自身、できれば戦後の児童福祉の歴史を丹念にたどりたいとかねがね思っていた。それが、戦後史を別の角度から見る有力な方法だと思うからだが、それはまた、戦後の日本がどの程度本物の国であったかを判断する視点を提供してくれるだろうと考えるからだ。
今般戦後の児童福祉関連の重要文献を体系的に刊行する本ライブラリーは、そのための重要な資料となることは間違いなく、戦後史再考の格好の機会を提供してくれたと思う。
児童保護から子ども家庭福祉へ、未来を考える基礎文献
高橋重宏(東洋大学教授、日本社会福祉学会会長、日本子ども家庭福祉学会会長)
2005年4月1日から日本の子ども家庭福祉制度が大きく転換しました。児童家庭相談が市区町村の責務になり児童相談所は後方支援と司法的介入のケースを担っていくことになりました。また、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画もスタートしています。
戦後、昭和21年12月厚生省は児童保護法要綱案を中央社会事業委員会に諮問しました。一部の要保護児童を対象としたものであり、委員会は猛烈に反対し、すべての子どもを対象とした児童福祉法が制定されていった経緯があります。これはコペルニクス的発想の転換といわれています。今回、児童福祉文献ライブラリーとして5つのシリーズが企画され『児童福祉基本法制』が刊行されました。本シリーズは戦後から1970年代までに刊行された、今日の児童家庭福祉制度の発展に影響を与えた名著が選定され、復刻集成されたものです。
戦後、児童福祉という新たな理念が誕生し、どのように法制度が策定されていったのか当時の行政にかかわった方々の貴重な証言集でもあります。さらに、社会経済的な変化の中でどのように法制度が変化したのかが体系的に整理されていますJ子ども家庭福祉を専攻する学部学生、大学院生、研究者の方々にぜひ一読をお薦めします。
編集にかかわった網野武博氏、柏女霊峰氏、新保幸男氏は厚生労働省の児童福祉専門官として児童家庭福祉制度の発展に大きな業績を残された方々であり、現在も研究者として重要な役割を担っておられます。
児童保護から子ども家庭福祉へ、ウェルフェア(福祉サービス)からウェルビーイング(社会サービス)へ、社会のニーズに対応し、制度は飛躍的に変化しています。これからを考えるためには特に歴史を学んでいただきたいと思います。
現時点における児童問題現象の原点にふれる
吉澤英子(大正大学名誉教授)
わが国の児童福祉法は、約60年前(1947年)高邁な思想のもとに制定され、社会の変化に応じ、度重なる部分的な改正を経て今日に至っている。それにもかかわらず、目まぐるしく変動する社会の中、私どもの生活実態の変化も早すぎて、フィードバックによる制御の時がもてない状況にある。とくに生活の様態に密着している児童の存在は、その変化に影響されやすく現実に様々な問題を多発させている。児童福祉領域の研究、活動、事業、施策などでも、フィードバック制御が間に合わず、対症療法的な状態が続いている。諸文献の刊行もその例外ではないだろう。
このような歯止めのない状況を是正する為の処方箋として、我が国の児童福祉はどこに向うべきか、その方向性を見据える必要がある。その意味で、当時の関係者の見解がうかがえる文献や関連資料など、現在の児童問題の起点に触れることができる本ライブラリーは非常に有益な資料と考えられる。
戦後の混乱期から、1970年代に到る数多く刊行されている関係文献の中から精選された名著、貴重な資料は、問題解決へのひとつの手掛かりを与えてくれるであろう。またこれからの人口減少社会における児童、家庭福祉のあり方、いわば予防福祉への示唆をも、このライブラリーから得られるのではないかと期待をしている。
研究者をはじめ、これからの研究に勤しむ学徒に、心から推薦したい。同様に関係大学、専門学校など養成機関の図書館に必ず揃えてしてほしいと願うものである。